| <メッセージ> |
| ●ベタニア |
| 時は刻一刻と十字架に向かって進んで行きます。 |
| 闇が深まっていきました。 |
|
| すべてが深い闇に閉ざされる中で、ベタニアのひとつの家だけが、ほんのりと |
| 暖かい光に包まれています。 |
| イエス様が最後の1週間を過ごされる家です。 |
| |
| ●指名手配 |
| この時すでにイエス様は指名手配されていました。 |
| 「イエスの居どころが分かれば届け出よ」いう命令が出ていたのです。 |
|
| もはや公然とユダヤ人たちの間を歩くことが出来なくなったイエス様は、荒れ |
| 野に近いエフライムという町に逃れられました。 |
| |
| ●過越祭 |
| 過越の祭が近付いてきました。 |
|
| 多くの人達が身を清めるために、過越祭の前にすでに地方からエルサレムへ |
| 上ってきていました。 |
| 人々は |
| 「どう思うか。あの人はこの祭りには来ないのだろうか。」 |
| と言い合っていました。 |
|
| すごい業をされるイエス様に会ってみたいと望む人達と、来たら捕まえようと待 |
| ち構えている人達の両方が言っている言葉です。 |
|
| ●ベタニアへ |
| 過越祭の6日前、イエス様はベタニアに行かれました。 |
| ベタニアはエルサレムから3kmほど離れている田舎町です。 |
| そこには愛するマリア、マルタ、ラザロの兄弟姉妹の家がありました。 |
|
| ベタニアに来た翌日にイエス様はエルサレムに入られます。 |
| イエス様はエルサレムに行けば何が起るか分かっておられました。 |
| すべてをご承知の上で、イエス様は自らエルサレムに向かわれたのです。 |
|
| そして最後の6日間、ベタニアに泊まられました。 |
| 昼間は神殿に行かれ、夜は愛する者達と、つかの間の安らぎの時を持たれた |
| のでした。 |
|
| ●食事の席で |
| イエス様をお迎えしたその日、マリア、マルタ、ラザロの家では夕食が準備され |
| ていました。 |
| |
| マルタはかいがいしく食事の世話をしています。 |
| ラザロが食卓についています。 |
| イエス様の弟子達、そして大勢の人達もいます。 |
| |
| ●喜びの家へ |
| 少し前、この家は悲しみの家でした。 |
| ラザロが死にました。 |
| 墓に葬られ、もうここにはいません。 |
| マリアが泣いています。 |
| 人々も泣いています。 |
| マルタは弔問客や葬儀のために気丈に動き回っていました。 |
|
| 今、この家は喜び、感謝、愛が溢れる家になりました。 |
| イエス様がおられます。 |
| イエス様が生き返らせたラザロがいます。 |
| 人々はそのラザロを見たいと集まっています。 |
| |
| ●香油を注ぐ |
| 食事の席にマリアが入ってきました。 |
| 純粋で非常に高価なナルドの香油を一リトラ持っています。 |
| マリアはイエス様の足もとにひざまずきます。 |
| イエス様の足に香油を塗りました。 |
| そして束ねてあった髪をほどいて、イエス様の足を拭い始めたのです。 |
| 髪の毛は女性にとって冠です。 |
| とても大切なものです。 |
|
| 香油の香りがしてきます。 |
|
| 1リトラの香油。 |
| 1リトラは約326gです。 |
| 容量に直せば400ccくらい、カップ2杯の分量です。 |
|
| 値段は3百デナリオンします。 |
| 1デナリオンは労働者の一日分の給料の額です。 |
| 一日1万円とすれば300万円になります。 |
|
| マリアはカップ2杯分300万円する香油をイエス様の足に塗ったのでした。 |
|
| 香油の香が家中に広がっていきました。 |
|
| ●マリアの心 |
| マリアはなぜこのようなことをしたのでしょうか。 |
|
| マリアは何も言いません。 |
| 何も説明しません。 |
|
| このようなことをするマリアの心を受け取るのは私達ひとりひとりです。 |
|
| 私達はマリアがしていることを見ています。 |
| 香油の香りにつつまれています。 |
| 今あなたは何を感じていますか。 |
| ひとりひとりが、マリアの心に耳を澄まし、その心を聴くのです。 |
| あなたは何を聴き取っていますか。 |
| ページの上に戻る |
| ●ユダの考え |
| イスカリオテのユダの考えはこうです。 |
| 「なぜ、この香油を三百デナリオンで売って、貧しい人々に施さなかったのか。」 |
| |
| ユダの考えはよく分かります。 |
| 正直言って、私達も「300万円!もったいない」と思っているのです。 |
| ですから、ユダの考えはユダだけの考えではありません。 |
| 私達自身の考えです。 |
|
| ユダの言っていることはまさに正論です。 |
| 300万円もあれば、貧しい人達をたくさん救うことが出来るのです。 |
| イエス様に注ぐより、はるかに有効な使い方です。 |
|
| イエス様は貧しい人達、苦しんでいる人達、弱い人達に心を砕いておられま |
| した。 |
| ですからユダは、イエス様だってそう思っている、と思って言っているのです。 |
|
| ユダは12弟子の一人です。 |
| いつもイエス様と一緒にいて寝食を共にしているのです。 |
| 彼はお財布を任せられていました。 |
| イエス様がユダを信頼しているということです。 |
| イエス様に言われてお金を払うのではなく、イエス様の心をいち早く察知して |
| お金を使い、イエス様がなさることを支えてきたのでした。 |
| 自分はイエス様の気持ちがよく分かっている、と思っていたのです。 |
|
| ●心の奥 |
| しかし、ユダについて厳しいことが言われています。 |
| 「彼がこう言ったのは、貧しい人々のことを心にかけていたからではない。彼は |
| 盗人であって、金入れを預かっていながら、その中身をごまかしていたからで |
| ある。」 |
|
| 心の奥の奥が探られています。 |
| 人のために、と思っている。 |
| そうすることがイエス様の思いに適っていると思っている。 |
| けれども、もっと深いところでは、そうしている自分に満足しているのだ、と聖書 |
| は鋭く指摘します。 |
|
| ユダは自分の遊びや快楽のために預かっていたお金を使ったわけではないで |
| しょう。 |
| 彼はイエス様に夢を託していました。 |
| イエス様が成功することが、自分が成功することでした。 |
| それで一生懸命イエス様のために働いてきたのです。 |
|
| けれども、預かっているお金に対して必要なお金はあまりに多い、 |
| ああもっとお金があれば。 |
| そういう思いが彼の心にいつもあったのでしょう。 |
| お財布を預かっているからこその苦悩です。 |
| それが、「なぜ、貧しい人々に施さなかったのか」と言う言葉になり、ついには |
| イエス様をお金で売ることになっていくのです。 |
|
| イエス様を分かっていると思っているのに、イエス様の心から離れていってい |
| たのでした。 |
| 結局は自分の思いで使っていた、究極的には自分が成功するために使ってい |
| たのです。 |
|
| ユダの心は悲しいばかりの人の心です。 |
| 誰もが持っている心です。 |
| ユダだけが悪いのではありません。 |
| 私達もユダと同じ心を持っています。 |
| |
| ●イエス様は言われる |
| イエス様はユダに言われました。 |
| 「この人のするままにさせておきなさい。わたしの葬りの日のために、それを |
| 取って置いたのだから。」 |
| |
| イエス様は高価な香油をイエス様に注ぐマリアの心をそのまま受け取られま |
| した。 |
| 「今マリアが注いでいる香油は、わたしの葬りのための香油なんだよ」 |
| と言われます。 |
|
| 「貧しい人々はいつもあなたがたと一緒にいるが、わたしはいつも一緒にいる |
| わけではない。」 |
| と言われます。 |
|
| イエス様から外れているならば、貧しい人々に施すことさえ、自分中心の思い |
| なっているのです。 |
| イエス様をもとにして、すべてのことを行わなければいけません。 |
|
| 自分では良い事をしている、一生懸命していると思っていても、その事がイエ |
| ス様から出ているものなのか、自分の思いから出ているものかを、良く吟味し |
| なければいけません。 |
| イエス様のためと思って始めても、いつの間にか自分のためになる私達なの |
| ですから。 |
| |
| ●マリアの思い |
| マリアがこの時どれくらい分かっていたかはわかりません。 |
| でも、そうせずにはいられない、マリアを突き動かしている何かがあります。 |
|
| 愛する大切な兄弟ラザロが死んでしまった。 |
| 「主よ、もしここにいてくださいましたら、わたしの兄弟は死ななかったでしょう |
| に」 |
| と訴えたマリアでした。 |
|
| でもそうではなかったのです、イエス様は死んだラザロを生き返らせてくださっ |
| たのでした。 |
| 今現にラザロはここにいて、一緒に食卓についている。 |
| 感謝があふれます。 |
|
| マリアはラザロの出来事に、イエス様の死と復活を感じ取ったのでしょう。 |
| ラザロだけではない、わたしのために、すべての人々のために死なれるイエス |
| 様、 |
| イエス様は復活されて、わたしに、すべての人に死で終わらない命をくださる。 |
|
| それは、はっきりと言葉になる思いではなかったでしょう。 |
| けれどもマリアには感じるところがありました。 |
|
| 死んで命をくださるイエス様。 注いでも注いでも表しきれない感謝の思い。 |
|
| 香油の香りは家一杯に満ち溢れました。 |
| |
| ●知られている |
| この日マリアがしたことは、人々の心に染み入っていきました。 |
| マリアがしたことが語り次がれていきました。 |
|
| ヨハネによる福音書では、 ラザロの出来事を語る前に、 |
| すでに「ある病人がいた。マリアとその姉妹マルタの村、ベタニアの出身で、ラ |
| ザロといった。 |
| このマリアは主に香油を塗り、髪の毛で主の足をぬぐった女である。その兄弟 |
| ラザロが病気であった。」 |
| と書かれています。 |
| 「ほら、みんなも良く知っているだろ、あのマリアだ。」 |
| と言っているのです。 |
|
| ●香りが広がって |
| マリアがイエス様に注いだ香油の香りは、家にいる全ての人々を包み込みま |
| した。 |
| そこには、マルタがいます、ラザロがいます、ラザロを見るために来ている人達 |
| もいます。弟子達がいます。 |
| そしてイスカリオテのユダもいます。 |
| すべての人達を香油の香りが包んでいます。 |
|
| その香りは家からあふれ、さらに広く広く時を越えて広がっていきました。 |
|
| ●結語 |
| 今、私達もマリアが注いだ香油の香りに包まれています。 |
| |
| わたしのために死んでくださったイエス様。 |
| わたしに永遠の命を与えるために死んで復活されたイエス様。 |
| |
| 注いでも注いでも注ぎきれない感謝。 |
| |
| 私達もイエス様の足もとにひざまずいて香油をささげます。 |
| ページの上に戻る |