<メッセージ> |
●自分を知らない自分 |
私達は自分のことは自分が一番よく知っていると思っています。 |
たしかにそうです。 |
自分のことをよく分かってくれていると思う人に話しても、そうじゃないんだけど |
なあ、わたしの気持が伝わっていないなあと感じることがあります。 |
考えていること、思っていること、感じていることをすべて人に伝えることは出来 |
ません。 人には決して話さない事柄もあります。 |
自分のことは自分が一番よく分かっているのです。 |
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けれども自分でも知らない、気付いていない自分がいます。 |
ペトロはあの夜、自分が知らなかった自分を知ったのでした。 |
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●大祭司の中庭 |
その出来事は世の中の表舞台で起ったのではありません。 |
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その場に居合わせたのはわずか数人の人々です。 |
女中と下役達でした。 |
この人達は世の中の表舞台に出ていく人達ではありません。 |
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場所は大祭司の屋敷の中庭です。 |
大祭司と言えば、世の中で一番権力を持っている人です。 |
祭司長、長老、律法学者たちが集まっています。 |
最高法院の議員達です。 |
この人達も表舞台に立っている人達です。 |
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イエス様を取り調べています。 |
何とかしてイエス様を死刑にしようと、そのことに夢中になっています。 |
下の中庭にいる人達のことなど全く眼中にありません。 |
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●ペトロの否認 |
下の中庭に大祭司に仕える女中の一人がやってきました。 |
彼女は人々に混じってたき火にあたっているペトロをじっと見つめて |
「あなたも、あのナザレのイエスと一緒にいた。」 |
と言いました。 |
ペトロは打ち消して |
「あなたが何のことを言っているのか、わたしには分からないし、見当もつかな |
い」 |
と言いました。 |
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そんなにむきになって否定することはなかったでしょう。 |
当時女性は全く表舞台に出ることはなかったのです。 |
女性が公に何かを訴えることは許されていませんでした。 |
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「ああ、そうだよ」と言ったとしても、それ以上に事が大きくなることはなかった |
のです。 |
「見かけない人だと思ったけど、それでここにいるのね」 |
くらいで終わってしまったはずです。 |
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強く否定するペトロの心に何かがありました。 |
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人は自分の言ったことが否定されると、自分の思っていることが正しいことを |
言い張りたくなります。 |
彼女は周りの人々に、「この人は、あの人たちの仲間です」と言い出しました。 |
ペトロは、また打ち消します。 |
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今度は、居合わせた人々までが |
「確かに、お前はあの連中の仲間だ。ガリラヤの者だから。」 |
と言い始めました。 |
ペトロの否定はエスカレートしていきます。 |
呪いの言葉さえ口にしながら、 |
「あなたがたの言っているそんな人は知らない」 |
と誓ったのでした。 |
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●イエスの予告 |
すると鶏が鳴きました。 |
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ハッとしました。 |
そこには、決してそんなことはしないと思っていたことをしている自分がいたの |
です。 |
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数時間前のことです。 |
イエス様が言われたのでした。 「あなたがたは皆わたしにつまずく。『わたしは |
羊飼いを打つ。すると、羊は散ってしまう』と書いてあるからだ。しかし、わたしは |
復活した後、あなたがたより先にガリラヤへ行く。」 |
その時ペトロは言ったのでした。 |
「たとえ、みんながつまずいても、わたしはつまずきません。」 |
するとイエス様が言われました。 |
「はっきり言っておくが、あなたは、今日、今夜、鶏が二度鳴く前に、三度わたし |
のことを知らないと言うだろう。」 |
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ペトロは力を込めて言い張ったのでした。 |
「たとえ、御一緒に死なねばならなくなっても、あなたのことを知らないなどとは |
決して申しません。」 |
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●自分が壊れる |
それなのに… |
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ペトロは激しく泣きました。 |
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これが自分だと思っていた自分が粉々に砕け散りました。 |
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これまで生きてきた日々が崩れ落ちました。 |
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ペトロは12人の弟子達の先頭に立ってイエス様に従ってきたのです。 |
大勢の人達が集まっている中で、イエス様の弟子として働くことに誉れを感じて |
いました。 |
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大切な出来事の時は、イエス様はペトロ、ヤコブ、ヨハネの3人だけを連れて行 |
かれました。 |
自分はイエス様に認められている、信頼されている、特別に愛されていると思っ |
ていました。 |
イエス様の期待に応えようと、ペトロは心を込め思い込め、それはそれは一生 |
懸命働いてきたのです。 |
イエス様のために働くことは大きな喜びでした。 |
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それなのに、それなのに・・・ |
取り返しのつかないことをしてしまった。 |
自分に絶望するペトロです。 |
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●イエスが共におられる |
ペトロが、自分の知っている自分、自分が知らなかった自分、まだ知らないでい |
る自分、その自分すべてを受け入れて生きられるようになるのに、ずいぶん長 |
い時間がかかっただろうと思います。 |
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けれど主は、ペトロを絶望の淵から救い上げてくださいました。 |
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まもなくペトロはイエス様が復活されたことを知るのです。 |
復活のイエス様はペトロ始め弟子達に会ってくださり、確かに復活されたことを |
示してくださいました。 |
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ペトロはわかったのです。 |
『イエス様は何もかもご存じだった。 |
わたしがイエス様を知らないと言った時もイエス様はいてくださった。 |
わたしが取り返しのつかないことをしてしまったと泣いていた時も、いてくださっ |
た。 |
イエス様はわたしが知らないわたしを知っておられたんだ。 |
わたしのすべてを知った上で受入れてくださっていた。 |
イエス様を裏切ったわたしを赦すために、イエス様は十字架に死んでくださった |
んだ。』 |
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●「羊を飼いなさい」 |
十字架にかかられる前にイエス様が言われた言葉がよみがえってきました。 |
「シモン、シモン、サタンはあなたがたを、小麦のようにふるいにかけることを神 |
に願って聞き入れられた。 |
しかし、わたしはあなたのために、信仰が無くならないように祈った。だから、あ |
なたは立ち直ったら、兄弟たちを力づけてやりなさい。」 |
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そして復活されたイエス様がペトロに言われたのでした。 |
「わたしの羊を飼いなさい。」 |
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復活の主は、ペトロをもう一度立たせてくださったのです。 |
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●ペンテコステ |
私達は、ペンテコステの日に立ち上がって大勢の人達の前に立っているペトロ |
を見ます。 |
ペトロは声を張り上げて話しています。 |
「…だから、イスラエルの全家は、はっきり知らなくてはなりません。あなたがた |
が十字架につけて殺したイエスを、神は主とし、またメシアとなさったのです。」 |
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ペトロは最初の教会にあって中心的な人物になりました。 |
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●心の傷 |
表舞台に立っているペトロを見ていると、ペトロはすっかり立ち直ったように見え |
ます。 |
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けれどもそうではないでしょう。 |
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あの出来事は、世の表舞台で起こったことではないのです。 |
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誰も知らないのです。 |
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あの時ペトロを問い詰めた女中も、周りにいてとがめた人達も、ペトロが否定し |
たのですから本当のことはわからないままです。 |
どっちにしてもたいしたことではない、どうでもいいのです。 |
すぐにすっかり忘れたでしょう。 |
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他の弟子達は、あの夜ペトロが大祭司の中庭に行ったことを知りません。 |
その時ペトロがしたことなど全く知りません。 |
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誰も知らない。 |
ペトロだけが心に抱えた痛みでした。 |
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●癒されて |
私達はペトロの深く胸の内に秘めていた傷が癒されたことを知ります。 |
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ペトロがあの夜のことを話し始めたのでした。 |
話せるようになったのです。 |
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ペトロはキリストの果てしなく大きな愛が分かるようになりました。 |
わたしはイエス様を裏切った。 |
それでも主はわたしを捨てることをなさらない。 |
わたしを捨てるのではなく、わたしのすべてを受け入れてくださるために、ご自 |
分の命を捨ててくださった。 |
挫折の経験によって、主の十字架の意味が深く深く分かったのでした。 |
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その後も教会の中心として立つことによって様々な出来事に会い、自分の過ち |
や弱さを思い知らされました。 |
その中で、主が自分のすべてを受け入れてくださっていることが本当に良く分 |
かってきたのでした。 |
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こんなわたしでも主はあるがままのわたしを受け入れてくださっている。 |
それが分かった時、ペトロは自分を受入れることができました。 |
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自分の信仰の確かさに生きていたペトロは、神様の確かさに生きるペトロに生 |
まれ変わりました。 |
自分がどんなに情けない人間であっても、神様の確かさは変わらない。 |
自分の弱さ、欠け、過ちを隠す必要がなくなりました。 |
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あの日のことを話せるようになりました。 |
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●私達の物語 |
ペトロの物語は、私達自身の物語です。 |
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ペトロが話してくれたので、私達はペトロに起こったことを知ることができました。 |
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ペトロに起こったことは私達にも起こることです。 |
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イエス様は私達のためにも十字架にかかってくださったのです。 |
私達一人一人をまるごと受け入れてくださるために、主はご自分の命をささげ |
てくださいました。 |
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十字架を見上げる時、わたしがすっぽりと主の御腕に抱かれているのがわかり |
ます。 |
自分の知っている自分、自分が知らなかった自分、まだ知らないでいる自分、 |
そのすべての自分を主が知っておられ受け入れてくださっていることがわかる |
と本当にホッとします。 |
安心にあたたかくつつまれます。 |
すると、自分もあるがままの自分を受入れることができるようになるのです。 |
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●結語 |
主に愛され受け入れられている安心の中で、私達はのびやかに軽やかに生きて |
いくことができます。 |
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キリストの愛が、いつでも、どんな時でも、私達−わたしを、あなたを包んでくだ |
さっています。 |
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